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2004年から2009年まで更新していたブログ「今週のすぎやん」の内容を抜粋・修正し、ブログには書ききれなかった作者の思いや後日談なども新たに書き下ろしたエッセイ。

友だちとのお別れ。

近況報告
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お義母さん(ダンナの母)は朗らかな人で、友だちや知り合いが多い。
何十年も前、かつての勤務先で知り合ったAさんも、良き友人のひとり。
お互いの夫も加えたメンバーで、何度も旅行したこともあるそうで、家族ぐるみの付き合いを長年続けていた。

時は流れ、皆が等しく高齢になった。
Aさんの夫は、闘病生活を長く続けていた。夫の看病で疲れ、気落ちすることが多かったAさんの元に、お義母さんは何度も通い、時にお義父さん(ダンナの父)も同行し、話し相手になっていた。

今年5月、Aさんの夫が亡くなった。
葬儀時はもちろん、Aさん夫婦が購入していた、大阪府内にある合祀墓への納骨時にも、お義母さんは足を運び、Aさんに寄り添っていた。

ひとりぐらしとなったAさんに、お義母さんは時折連絡し、長電話を楽しんでいたそうだ。

7月下旬、お義母さんのもとに、Aさんからのお中元が届いた。
お義母さん曰く、こんな形でAさんが物を贈ってくるなんて、初めてのことだったらしい。

さっそくお義母さんはAさん宅に電話したが、誰も出ない。
日を変えて何度か電話しても、出ない。

ようやくつながった電話に出たのは、Aさんの弟さんだった。
自己紹介と電話した理由を伝えたお義母さんに、弟さんはこうおっしゃったそうだ。

「姉は、亡くなりました」


最初にAさん宅の異変に気付いたのは、住まいである共同住宅を定期的に巡回している管理人だったらしい。
Aさん宅のポストに、新聞や郵便物が放置されることなど、これまでなかったことだからだ。

Aさん夫婦には子どもがいないため、緊急連絡先として指定され、家の鍵を預かっていたのは、Aさんの弟さん。
管理人から、「様子が変だから、すぐに来てほしい」との要請を受けたものの、あいにく弟さんの住まいは遠方のため、迅速な対応が困難。

弟さんの了解を得て、室内に入った管理人が見たのは、変わり果てたAさんの姿だった。

室内は、エアコンのスイッチが切られていたため、既にご遺体の腐敗が進んでいた。
不審な点もないので、たぶん熱中症で亡くなったのだろうという警察の見立てだった。

そんな事情を聞かされたお義母さんのショックは、それは大きなものだった。

猛暑の中、デパートに足を運び、お中元の発送手続きをしたのは、もしかしたら亡くなった日なのではないだろうか。
Aさんはお風呂が大好きで、夕方から入浴する人だった。お風呂には水が張られていたとのことなので、帰宅後すぐにお風呂の準備をして、汗を流そうとしたのではないか。
しかし、気分が悪くなったか何かで倒れ、室内の暑さで熱中症となり、そのまま亡くなったのではないだろうか。

お義母さんはそんなことを、私にぽつぽつと話してくれた。

お義母さんは葬儀にも参列したが、棺の蓋が開けられることはなかったそうだ。
顔を見てのお別れができないことを予感していたので、お花を持参し、棺の上にのせてきたとおっしゃっていた。

「8月の始めに会う約束をしていたのに」と、何度もつぶやくお義母さん。

9月、2ヶ月前にAさんが夫を納骨した同じ場所で、Aさん自身の納骨が行われた。
お義母さんはお義父さんと2人で参列。弟さんと3人でAさんを見送った。

Aさんきょうだいには、身内がほとんどいないとのこと。
弟さんはひとりでの納骨を覚悟していたので、お義母さんとお義父さんの参列を、とても喜んでいたそうだ。

お義母さんは、「また友だちが、ひとりいなくなった」と寂しげだった。
でも、最後までお見送りができたことで、気持ちの区切りはついた様子だった。

夫が亡くなってから2ヶ月後に旅立った、Aさん。
ご主人を追いかけていったのかな。それとも、Aさんを心配したご主人が手招きしたのかな。

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