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2004年から2009年まで更新していたブログ「今週のすぎやん」の内容を抜粋・修正し、ブログには書ききれなかった作者の思いや後日談なども新たに書き下ろしたエッセイ。

「私、なんで別れられないんだろう」は、おかしみのオブラートでくるまれた、愛と覚悟の物語。

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漫画家のいのうえさきこさんを知ったきっかけは、Twitterのフォロワーさんが使っていたプロフィール画像。
そのフォロワーさんのリンク経由で、いのうえさんのブログにたどり着いて愛読するようになり、ブログにコメントしたことがきっかけで、いのうえさんがTwitterでフォローして下さり、現在に至っています。

彼女の最新作が、ノンフィクションエッセイ「私、なんで別れられないんだろう」。

未診断・無支援・失職・二次障害(ウツ発症)…家族を取り巻く四重苦を生き抜いたふたりの10年史。

脳出血で倒れ、脳の損傷による高次脳機能障害を発症した、パートナーの寝太郎さんとの10年間が描かれています。

普段は理性で抑えている感情が突然爆発する「感情失禁」とか、通常よりも疲れやすい「易疲労性(いひろうせい)」によって、居眠りが多くなるとか、とにかくすぐに忘れてしまうとか、脳の損傷具合によって、高次脳機能障害の症状は様々あるようです。

私が印象に残ったのは、「半側空間無視」のお話し。
実際は見えているが、左側に注意するという考えが浮かばない寝太郎さん。目の前に何品かおかずがあっても、左側に置かれたおかずは認識されず、手つかずのまま。そこで、そのおかずを見えるゾーンに移動させると、「こんなおかずがあったんだ!」と認識し、寝太郎さんは喜んで食べるのだそうです。

こういった知識がないままだと、そばで介護する人は、傷つきますよねえ。
どれだけ怒っても、文句を言っても、当の本人はけろっと忘れちゃうし。

重い病を患った人と生きる様子を描いたエッセイ漫画って、他にもたくさんあると思うのですが、おかしみとかなしみの塩梅を取るのが難しいと思うのです。
でもこの作品は、いのうえさんの悩みとか苦しみとかも、おかしみのオブラートみたいなのをふわっとまとわせて、いい意味で気楽に読めます。
そして、ほんの一部だと思いますが、高次脳機能障害についての基礎知識も得られます。

さらに、彼女のブログ更新が長期間停滞していた理由が、やっとわかりました。
こんな大変な日々を送っていたのなら、ブログにまで手が回らないのは、当たり前だわ。

この本を読んで、十数年前に抱いていた父への思いを、久しぶりに思い出しました。

母が亡くなり、父とふたりになった時、どうしようかと思いました。当時29才、未婚の一人っ子でしたから。
最初は、後ろ向きなことばかり考えていましたが、父が「とにかく生きたい」と無意識に思っていることに気付いた時、私の意識も大きく変えることができました。

「父の人生はあと何年だろう」という、父の死を待つような後ろ向きで失礼な考えはやめよう。
父が長生きすることを前提に、私が今後どう生きていくかを考えよう。
父は、どうあろうとも、父なのだから。

この作品の肝は、いのうえさんが、ありのままの寝太郎さんを本当の意味で受け入れたところにあると、私は思うのです。
これからもきっといろいろあるけれど、やっぱりこの人と一緒にいようという覚悟は、なかなかできるものではない。その境地に至るまで、本当にしんどかっただろうなあって想像します。

この作品は、寝太郎さんへのラブレターも兼ねた、いのうえさんの覚悟の物語だと思いました。

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